存在感ゼロの女

 

朝、ベランダで洗濯物を干していたら、スズメよりも一回りくらい大きな鳥が、肩に激突してきた。横も上もスペースはあるのに随分な勢いで。

 

いよいよ鳥にすら認識されないほど存在感が薄くなってしまったのだろうか。決して鳥に恨まれるようなことはしていない。

 

するとその鳥が、ベランダの柵のところで動かなくなった。しばらく様子をうかがっていたが、動く気配がない。もしかしてお怪我を?と恐る恐る近寄ってみる。逃げもしない。

 

どうしよう、と心配になり家族を呼びに行こうとした瞬間、何かが落ちた。

 

ただ、用を足しているだけだった。

 

激突してきたり、敵かもしれない人間が、数センチ近くまで寄ってものんびり用を足しているなんて、危機管理は大丈夫なのだろうか。

 

きっと激突したもの、思考回路が弱っているのも、この暑さのせいでお疲れなのだろう、人間も同じだし。と広い心で鳥が落としていったお土産を見なかったことにする。

 

きっと夕立が綺麗に洗い流してくれるだろう、と願って。